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ポジションに理屈をつけてはいけない

エントリーする場合も、イグジットする場合も、とにかくファンダメンタルズ的な理屈をつけたがる人がいます。

「雇用統計の数字が市場の事前予想に比べてよかったからドルを買う」。

「中国の景気が回復基調にあるから、中国と経済的な結びつきの強い豪ドルを買う」。

理屈は実にさまざまです。確かに経済指標などの発表時に相場が反応することはあります。しかしそれはトレンドに合った材料が出たからであって、トレンドに合っていない場合はほんの一瞬反応するだけで元の流れに戻ってしまいます。

本来、相場というものは、このような材料とはまったく関係なく動きます。相場は上がりたいから上がり、下がりたいから下がるもので、チャートを仔細にみれば、材料のほとんどは「後付け」であることがわかるでしょう。相場は波動を描きながら上がったり、下がったりを繰り返しており、それに材料を後付けしているに過ぎないのです。

為替相場の変動時には、要因として景気の良し悪し、金利差、経常収支、貿易収支の黒字・赤字など、さまざまな理屈づけがなされますが、実際のところ、こうした理屈づけによって相場が動いているわけではありません。

相場を動かしているのは波動、つまりトレンドです。

ということは、トレンドの方向性さえはっきりしていれば、材料などは何の意味もないことになります。トレーダーはさまざまな材料に惑わされずにトレンドに乗ること、そしてそのトレンドに沿ったポジションを持っていればよいということになります。

さまざまな材料が世の中には出回っています。為替市場には貿易取引を行なう輸出入業者をはじめ、生保などの機関投資家、投機筋といわれるヘッジファンドや、数千万ドル単位を一度に動かすトレーダーから個人投資家に至るまで参加者はさまざまです。こうした人たちに向けて材料を提供するのがエコノミストやストラテジストといわれる人たちです。彼らは自分の分析=材料を外に向けて公表するのが仕事ですから理屈が優先するのは仕方のないことです。あるいは機関投資家の部類に入るファンドマネジャーなども、他人からお金を預かって、それを運用している以上、自分の顧客に対して、運用経過などを説明する責任を負っていますから、これもやはり運用するための理屈をつけるのは致し方ないことかもしれません。

しかし、トレーダーというものは材料に惑わされて大きなトレンドに乗り損ねてしまうリスクに注意しなければなりません。好材料なのに買われない、悪材料なのにどうして売られないのか、と考え過ぎてポジションをうまくコントロールできなくなったりするからです。みなさんは一トレーダーとして相場をできるだけシンプルに考えてください。いくら複雑に考えたとしても、最終的には、買う、売る、何もしないという3つの選択肢しかないのですから。

自慢するとなぜか負ける

確たる理由があるわけではないので、これを「べからず集」に含めるべきかどうか、悩んだのですが、やはり載せることにしました。

自分の相場について自慢をした途端、たいていはその後に大きく負けてしまいます。相場に神様が宿っているのだとしたら、「慢心するな」という警告を発しているのかもしれません。

でも、何となくわかる気がしませんか? 相場を張るものは常に平常心を保ち、「淡々と勝ち淡々と負けよ」ということなのだと思います。

これは相場に限った話ではなく、何事につけてもそうです。自分が絶好調で、すべてうまくいっているときほど、奢る気持ちが出てきます。奢る気持ちをもったまま行動をして、よい結果になることは決してありません。それと同じことなのだろうと、自分自身では考えています。

もう少し深く考えてみたいと思います。

自慢するということは、自分自身のトレード手法に絶対的な自信を持っているからでもあります。よく投資本で「○○の必勝法」といったタイトルを目にすることがあります。自分が編み出したトレード手法で何度か成功を収めているうちに、そのトレード手法が「必勝法」であるかのような錯覚に陥るのではないでしょうか。

トレードには必勝法などありません。必勝法というのは、「この方法を用いれば絶対に儲けることができる」ということです。そんなものがあったら、世の中には大金持ちがたくさんになるでしょう。

世の中に必勝法などない理由、それは必勝法が世の中に出てきた時点で、多数派のものになっていくということです。投資は常に少数派に身を置いたときにこそ大勝するのです。それまでは自分だけのものだった必勝法が広く世の中に伝わっていき、やがて多数派の考え方になった途端、その必勝法は必勝法ではなくなります。必勝法があるとすれば、それは常に変化し続けて形を変えていくものなのです。

損益を「お金」に換算すると相場を見失う

トレードで一度でも損をしてしまうと、恐怖で次の手が打てなくなることが多いと思います。最初は誰でもそうなのです。むしろ上手く行き過ぎると後が怖いということもありますから、少し高い授業料を払ったと思ってあまり損益にこだわらないほうがいいでしょう。反省しても後悔するな、です。「いくら損した」とか「いくら儲けた」という具合に、お金で損益を考え過ぎると本来の目的を見失います。

緊張感のなかでもトレードをゲームとして楽しむ心のゆとりが必要です。FXは勝負の世界です。マネーゲームで勝つか負けるかの勝負ですから、これをお金に換算すると損得勘定ばかりが先走ってしまいます。

そうではなく、トレードでは「ポジションを持った通貨がターゲット(ポイント)に届いたかどうか」で勝ち負けを考えるのです。そして、エントリー、利食い、損切り、ポジション操作を的確に行なうにはどこがいいのかと、ポイントを考えることだけに神経を集中することが重要なのです。

正しい結果は後から付いてきます。

書籍名:FXプロの定石
著者:川合 美智子
東京銀行時代に伝説の為替ディーラー・若林栄四氏の下で鍛えられ、外銀の為替部長など要職を歴任してきた本物のプロである著者が、自らが日常使っているスイングトレードのテクニックをわかりやすく体系的にまとめた初めての本。エントリーの方法だけではなく、ポジション操作(利乗せとナンピン)を有効に使って損小利大を実現し、利益を残していくのがプロ。本書では、これまではほとんど明かされることがなかった、その考え方とノウハウを解説。応用編としてプロだけが知っている「シドニー市場で毎朝サクッと儲ける法」「ドル/円相場の値動きのクセ」「マドは埋まるという経験則」など、即役立つTIPSも多数紹介。為替トレードの技術が確実に一段上達する“基本書”。
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