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損切りのチャンスは何度でもある

エントリーしたポジションを損切りしなければならないのは、嫌なものです。しかし、私の師匠である若林栄四流にいえば、「相場というものは勝って当然、負けても当然」ですから、損切りも淡々と行なわなければなりません。
では、どういう場面で損切りするのでしょうか。
まず、自分がとったポジションの方向さえ合っていれば、エントリーした直後は多少の含み損は出ても、遅くとも一両日中には含み益に変わります。しかし、間違った方向にポジションを持ってしまうと、エントリーした時点で利益が出ていてもおそらく24時間以内に含み損に変わってきます。あるいはなかなか利益が乗ってきませんから、その時点で間違ったかどうかを判断します.
私の場合は、「ポジションを持って3日経過しても利益が乗らない」という場合は、その時点で自分の判断が間違ったかもしれないと考え、ポジションを閉じる方向で手段を考えるようにしています。
もちろん、方向は合っていたのにタイミングが悪かったということで、自分がポジションを閉じた後で、相場がその方向に動き始めるといったケースもあります。ただ、たとえそういうケースであったとしても、相場はなくなりませんし、チャンスはいつでもありますから、一度ポジションを閉じて、また改めてポジションをとり直せばよいことだと考えています。

順張りかアヤ狙いかでポイントは異なる

損切りの具体的な方法は2つあります。
まずは「絶対的な損切りポイント」です。エントリーの方法でも記したように、私の場合はトレンドラインとポイント&フィギュアの200ポイントリバースを併用して、トレンドラインから軌道を外れてしまうポイントやエントリーポイントから2円(200ポイント)程度離れた位置に逆指値を置くようにしています。「このポイントに達したらトレンドは変わる」というポイントであると同時に、これ以上深手を負うと簡単に取り返すのがむずかしくなると思うところに置くわけです。ですから、ここに達したら機械的に損切ります。
次に状況に応じてもう少し浅い、「当面の損切りポイント」をどこにするかを決めます。利食いと同様の視点から、中長期の方向に順張りのときには前述の「絶対的な損切りポイント」に置きますが、アヤ狙いのときには浅めのポイントにしておきます。
具体的には、順張りの場合はトレンドラインを日足の実体が外れても、200ポイントリバースを確認するまでは損切りしませんし、損切りポイントに近づいた場合はナンピンも試してみます。トレンドに沿ったエントリーをしているときには、損切りもつかないことが多いので、損切り近くでナンピンしたポジションが利に乗ることがあるからです。
これに対して逆張りの場合は、トレンドラインや21日移動平均線を切り始めたら200ポイントリバースを待たずに早めに撤退します。ナンピンも極力やらないか、金額を小さめにして試す程度にします。

損切りはスッキリ行なう

また、相場の動きにつれて、逆指値を置くポイントを有利な方向に移動させる、いわゆるトレーリングストップも状況に応じて活用したいところです。トレーリングストップのポイントは、相場が進むにつれて変わっていきます。買いのポジションであればサポートラインが上がるにつれて上昇していきますし、売りのポジションであればレジスタンスラインが下がるにつれて下降していきます。したがって、どこかの段階で、損切りではなく利食いに変わることになります。
しかし、残念ながらエントリーが失敗して損切りをする場合は、ポジションをすべてスッキリと清算するのが正しいやり方です。損切りでよくある判断ミスは、「ひょっとしたらまた元に戻るのではないか」と、淡い期待を抱いてしまうことです。しかし、そのような判断によって、損切りのポイントを変えたり、あるいは一部のポジションは持っておいたりといったことをするとポジションの操作がむずかしくなり、結果的に残したポジションも切らされてしまうことになりがちです。不思議なことに相場はあなたを必ず追い込んできます。
とくに、レバレッジを高めている場合などは、強制ロスカットされてしまうことにもなりかねません。相場の世界から退場させられては元も子もないのですから損切りは確実に行なわなければなりません。

相場が大きく動いたとき」には一工夫を

損切りで注意したいのは、相場が大きく動いたときです。
たとえば、絶対の損切りポイントは、「まずつかないと思われるが、つくようならトレンドが変わる」というポイントでした。
だとしたら、相場が大きく動いてこの損切りがついてしまった場合、ドテンする(ポジションを解消するとともに、反対のポジションを建てる)ことも一つの手です。
ドテンというのは、心理的な抵抗感もあって、個人投資家の方はなかなか実行できないようです。しかし、こうした場合の相場のエネルギーは大きく、さらに進むケースが多いのです。したがって、ここでポジションをドテンすることによって、「損切りによって受けた大きなロスを少しでも回復させることができるかどうか」によってその後の対応が大きく左右されるのです。
なお、月曜の朝、シドニー市場からの流れで、NYの引け値から窓を空けてとんでもない値段がついてしまったような場合は、そのまま損切りすると、短時間でみた場合、大底や素高値で手仕舞ってしまう可能性が高いので、東京市場が始まって市場が落ち着きを取り戻したところでリバウンドを待ってから手仕舞ったほうが得策です。
最後に、「自分は損失が30銭になったところで損切りをする」などというように、値幅で損切りのラインを決めている人がたまにいます。心情的な安心感なのかもしれませんが、これはよくありません。利食いのところでも述べたとおり、相場は投資家の損失額など関係なく動いていますから、結果としてまったく合理的ではないトレードになってしまう可能性が高くなります。

逆指値(損切り)の注文はいったん置いたら変更しない

損切りの逆指値注文を出しておいたのに相場の値動きがこれにタッチしそうになると思わず外してしまうことはありませんか? このような場合、短時間なら外したほうがよかったかもしれませんが、結果的にはもっと悪いところで切らされてしまうことのほうが多いものです。目の前の恐怖に勝てずに逆指値を外してしまうことは、後でもっと手痛い結果を生むことにもなりかねません.
私も外銀に勤めていたころに苦い経験があります。ポジションテイカーとして相場を張っていましたから、オーバーナイトでポジションを持つ(ポジションを翌日まで繰り越すこと)ことも多かったのです。そうした場合、日中持っていたポジションを2分の1から3分の1程度まで整理して軽くします。そして残りのポジションについては海外の支店に損切り注文を置いて寝るのです。
すると夜中に注文を執行する担当者から「いまドル/円相場は○○です。損切りがつくかもしれませんがどうしますか?」と親切にも(?)電話がかかってきます。気持ちよく寝ているところで起こされ、状況を把握して頭をフル回転させ、損切り注文を引っ込めるのかそのままにしておくのかを瞬時に判断するのは容易ではありません。とりあえずいったん外して考えよう、という結果に落ち着きます。
そして、もう少し離れたところに損切り注文を置き直して翌日を迎えます。すると、損切り注文を当初のままで変更しないほうが傷が浅かった、という確率が高かったのです。何度か失敗を重ねるうちに、私は「損切りが近づいても電話をかけてこないように」と指示しました。これで安眠を妨害されずにゆっくり休むことができるようになりました。
そもそも損切り注文は昼間のうちに熟考して出すものですから、正しい行動であることが多いのです。日中よりもポジションを軽くしておけば傷も浅く済むし、相場急変時やここを超えたらトレンドが変わってしまう、というポイントに置くこともできます。夜はゆっくり頭を休めて次の日の勝負に挑むためにも、エントリーの時点で熟考して損切り注文を置いたら、それについてはあれこれと考えずに、そのままにしておくことが大切です。

チャートでみる損切りの例

損切りにつきものなのは、自分が損切りしたらトレンドが反転し、「しまった」と思うことです。ここで取り上げるのはユーロ/ドル相場で、そうしたトレンド転換時の損切りを行なった例で、①〜⑤は、図表1のチャート上に示した番号に対応しています。

①7月25日の安値1.2054(1.2100)から200ポイントリバースしたのが7月26日、翌7月27日寄り付き1.2277でユーロ買い参入。損切りの逆指値は直近の高値、1.2390から200ポイントリバースする1.2150割れに置く。

②8月2日に1.2134まで下落して逆指値執行。約127ポイントの損失確定。

③翌8月3日に1.2392の高値を付けて、再び陽転。翌8月6日寄り付き1.2428で買いエントリー。損切りの逆指値は200ポイントリバースの1.22割れに設定。

④9月17日時点の逆指値は1.2950割れまで引き上げ。

⑤9月20に1.2950割れをみて逆指値が執行されたが、ここは500ポイントの利食いにつながった。

図表1 プロはいつどういう理由で損切りするのか?

プロはいつどういう理由で損切りするのか?

書籍名:FXプロの定石
著者:川合 美智子
東京銀行時代に伝説の為替ディーラー・若林栄四氏の下で鍛えられ、外銀の為替部長など要職を歴任してきた本物のプロである著者が、自らが日常使っているスイングトレードのテクニックをわかりやすく体系的にまとめた初めての本。エントリーの方法だけではなく、ポジション操作(利乗せとナンピン)を有効に使って損小利大を実現し、利益を残していくのがプロ。本書では、これまではほとんど明かされることがなかった、その考え方とノウハウを解説。応用編としてプロだけが知っている「シドニー市場で毎朝サクッと儲ける法」「ドル/円相場の値動きのクセ」「マドは埋まるという経験則」など、即役立つTIPSも多数紹介。為替トレードの技術が確実に一段上達する“基本書”。
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