「ポジションを操作する」とはどういうことか?

ここまでに、エントリー(仕掛け)とエグジット(利食い、損切り)の考え方と方法について解説してきましたが、単純にエントリーとエグジットを繰り返すだけでは、なかなか利益を伸ばし、損を小さくすることはむずかしいものです。
トレードで儲ける勝ちパターンとしては、利益と損失が同額なら5割以上の勝率が必要ですし、勝率が5割あるいはそれ以下であれば利益が損失よりも大きくなければなりません。一般的には、デイトレードなら勝率を高めることを目指す傾向が強く、スイングトレードなら利益の極大化を目指します。したがって、スイングトレードで勝つためにはいわゆる「損小利大」が不可欠だということです。
では損小利大をどうやって実現したらよいのでしょうか。
実は為替トレードの入門書には、この具体的な方法があまり書いてありません。その結果、「利食いをするときにはなるべくねばって、損切りはすぐに行なうように心がければよい」と勘違いする人がいますが、毎回、同じポジション量でそれを行なうとなかなかうまくいきません。やってみればわかりますが、必然的に利食いで手仕舞う回数は減って、損切りで手仕舞う回数が増えることになりますから、利食いの金額が大きくても、浅い損切りを繰り返していると結果的に、トントンかトータルでは儲からないのです。
プロがいう損小利大というのはそういうことではなく、「ここだ」という場面でポジションをいかに極大化して大きく儲けるか、そうでないときにはいかに小さく淡々と負けるかがポイントなのです。
したがって、「損は小さく、利益は大きく」を実現するためには、もう一つのテクニック、「利乗せとナンピン」を有効に使ってポジション操作を行なうことも必要になるのです(図表1)。
図表1 トレードはエントリー→ポジション操作→エグジットで完結する
トレードはエントリー→ポジション操作→エグジットで完結する

「有利になったとき」に乗せる

スイングトレードでポジションを持つときに、中長期のトレンドに対して順張りなのか逆張りなのかによって、利乗せの戦術は大きく変わってきます。
中長期のトレンドに対して順張りであれば、利乗せをしながら大きくとれる可能性が高いといえますし、逆張りであれば、利食いは迅速に、パっと入ってパっと出るのが基本です。
利乗せの具体的な方法には、以下の5つのポイントがあります。
利乗せのポイント
  • エントリーが正しいと思ったらすぐに利乗せを考えること。
  • 利益が乗り始めたらポジションを最初の金額の4〜5倍くらいまで段階的に増やすこと。増やし方は、チャートポイントを抜けたところで段階的に増やす(利乗せする)こと。
  • 利乗せするためにとったポジションの逆指値は前日足の安値あるいは高値を若干はずれたところに置き、これがついたら、いったんすべてのポジションを手仕舞うこと。この場合は翌朝まで様子見。この時点でもトレンドが変わっていない場合は、最初のエントリー時と同じポジション操作を初めから繰り返すこと。
  • エントリーしたポジションに含み損が出た場合は、損切りの手前でナンピンすること。損切りがついたらすべてのポジションを決済すること。
  • 中長期のトレンドに逆らう場合は、原則として利乗せはしない。損切り近くのナンピンもやらない。ナンピンを試す場合でも小さいポジションで行なうこと。
相場の醍醐味は「利乗せで稼ぐ」ことにあります。相場の面白さは、マーケットが方向転換したところでその流れに上手く乗り、利益の極大化を図ることにあります。ですから、トレンドが出たら勝負に出ます。「勝負に出る」ということは、ポジションを大きくするということです。そのためには、しっかりと利乗せのテクニックを磨くことが大切なのです。

利乗せの注意点

一方、利乗せには非常に怖い面があります。たとえば、1ドル=80円でドルを買い、81円までドル高が進んだところでさらにドルを買い、82円でまたドルを買うというように、どんどん高値でポジションを増やしていくわけですから、ヘタをするとせっかく利益になっているトレードを台無しにして、それまでの含み益を一気に吐き出してしまうことにもなりかねません。
しかし、利が乗ったときにそれを大きく増やしていくことが、トータルで収益を残していくためのポイントなのです。そのためには、トレンドが続いている限り、利乗せの効果は大きいといえるでしょう。
利乗せのメリットとデメリットについてもう少し考えてみましょう。
メリットは、トレンドが続いている限り、どんどん利益が大きくなっていくことです。たとえば、1ドル=80円10銭で5万ドルを買い、そのまま82円10銭までドル高が進んだとします。このときの利益は10万円になります。
これに対して、次のように利乗せしていった場合を考えてみましょう。

1ドル=80円10銭 5万ドル買い

1ドル=80円60銭 5万ドル買い

1ドル=81円10銭 5万ドル買い

1ドル=81円60銭 5万ドル買い

そして、1ドル= 82円10銭までドル高が進んだところで、これまで買い上がってきたドルを一気に売却して利益を確定させます。この場合の利益は、次のようなります。

1ドル=80円10銭 5万ドル買い……10万円

1ドル=80円60銭 5万ドル買い……7万5000円

1ドル=81円10銭 5万ドル買い……5万円

1ドル=81円60銭 5万ドル買い……2万5000円

したがって、利益の合計額は25万円になります。これが利乗せの効用です。
ただし、これはあくまでも相場が自分の想定したとおり、ドル高トレンドが進んだからです。
逆に、途中でドルが下落に転じ、元の買い値に戻った場合を想定してみましょう。手数料などを除けば、1ドル=80円10銭で買った5万ドルについては、損失も利益も出ず、いわゆる「行って来い」の状態になっただけです。
これに対して、利乗せしていった場合の損益を計算すると、次のようになります。

1ドル=80円10銭 5万ドル買い……0円

1ドル=80円60銭 5万ドル買い……▲2万5000円

1ドル=81円10銭 5万ドル買い……▲5万円

1ドル=81円60銭 5万ドル買い……▲7万5000円

ということは、合計で15万円の損失が生じたことになります。
このような失敗にならないようにするためには、トレンドの転換点を見逃さないようにすることが重要です。
また、私の場合は、先ほど記したように、「直近に乗せたポジションに損失が生じたら、その時点ですぐに全部のポジションを清算」しますので、当初のポジションがいわゆる「行って来い」になるまでポジションを持っていることはありません。

チャートでみる利乗せの例

それでは実際にどういうタイミングで利乗せを行なうのかをみてみましょう。
まずは長期トレンドを確認します。図表2をみると、長期トレンドラインを上抜けしたのが2月足ですが、3月足は31カ月移動平均線を上抜け切れずに終えています。この時点では長期的なトレンドがドル高円安に完全に転換していない状況です。
次に図表3をみると、日足ベースで9月13日安値77.13の底から2円(200ポイント)リバースしたのが 10月23日の高値77.99ですので(図表3の①)、短期トレンドの転換と見て、翌10月24日寄り付き79.99でドル買いエントリーします(図表3の②)。損切りの逆指値は200ポイントリバースが確定する77.50割れに置きます。
1回目の利乗せのポイントは31カ月移動平均線を大きく上抜け(図表2参照)、さらに、11月2日の直近の高値80.68をしっかり上抜けた11月15日です(図表3の③)。翌11月16日の寄り付きで買って、ポジションを増やします。以降、直近の高値を上抜けたところで利乗せします(図表3の④、⑤)。
なお、損切りの逆指値は、④の時点での逆指値は直近の高値から200ポイントリバースする81円割れ、さらに⑤の時点での逆指値は87円割れまで上がってきます。短期トレンドが変化した場合に備えて、逆指値も引き上げていくわけです。
図表2 利乗せは長期トレンドに順張りのときに行なう(ドル/円 月足チャート)
利乗せは長期トレンドに順張りのときに行なう(ドル/円 月足チャート)
図表3 プロはいつどういう理由で利乗せするのか?(ドル/円 日足チャート)
プロはいつどういう理由で利乗せするのか?

書籍名:FXプロの定石
著者:川合 美智子
東京銀行時代に伝説の為替ディーラー・若林栄四氏の下で鍛えられ、外銀の為替部長など要職を歴任してきた本物のプロである著者が、自らが日常使っているスイングトレードのテクニックをわかりやすく体系的にまとめた初めての本。エントリーの方法だけではなく、ポジション操作(利乗せとナンピン)を有効に使って損小利大を実現し、利益を残していくのがプロ。本書では、これまではほとんど明かされることがなかった、その考え方とノウハウを解説。応用編としてプロだけが知っている「シドニー市場で毎朝サクッと儲ける法」「ドル/円相場の値動きのクセ」「マドは埋まるという経験則」など、即役立つTIPSも多数紹介。為替トレードの技術が確実に一段上達する“基本書”。
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